なぜECにCRMが必要なのか?LTV向上・ファン化を実現する“関係設計”という視点
戦略プランナー
北村 健太

はじめに|EC事業の壁は「売ること」より「続けてもらうこと」
広告運用で新規獲得数は増えているのに、リピートが伸びず売上が安定しない。
チャネルごとにメッセージが分断され、顧客の熱量が育たない。
そんな悩みを抱えるEC事業者の多くが、同じ問いに直面しています。
「自社は“顧客との関係”を、どう設計しているだろう?」
この問いに正面から向き合うために欠かせないのが、CRM(Customer Relationship Management)の視点です。
CRMは、ツールでもメール配信でもありません。顧客との関係を“仕組み化”するための考え方と設計思想です。
01|そもそもCRMとは?EC文脈で再定義する“関係性の仕組み”
CRMは「顧客関係管理」と訳されますが、私たちはそれを**「一貫した関係性の構築プロセスを仕組みとしてデザインすること」**と捉えています。
- 顧客ごとにフェーズや温度感は異なる
- アプローチすべきタイミングもチャネルも、常に一様ではない
- それでも「このブランド、ちゃんと自分を見てくれている」と思ってもらえる状態をつくる
そのために、データ・タイミング・チャネル・メッセージを有機的に組み立てるのがCRMの役割です。
なお、よく比較されるMA(マーケティングオートメーション)との違いについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
02|なぜECにCRMが欠かせないのか?今あらためて問う3つの背景
1. 獲得偏重の限界と、LTVの重要性
新規顧客の獲得単価は年々上昇しています。一方、LTV(顧客生涯価値)を最大化する仕組みがないままでは、広告投資は回収されません。
CRMは、「初回購入からリピート・定着・ファン化」までの道筋を明示し、収益の質を変える武器になります。
2. 顧客理解とセグメント設計の難しさ
ECでは、顧客との接点が画面上に限定されます。関係性の「文脈」が見えづらく、アプローチの粒度が粗くなりがちです。
CRMは、蓄積されたデータをもとにセグメントを構築し、「誰に何をどう届けるか」の精度を高めます。
3. 部門間・チャネル間の分断
マーケ、CS、物流…それぞれが別の指標で動き、顧客には一貫性のない体験が生まれがちです。CRMは“全体設計のハブ”として、部門を横断したコミュニケーションの統一を実現します。
03|ECでCRMを活用する3つのメリット
1. 顧客データの統合とアクション設計
- 初回/リピート/休眠など、フェーズ別に顧客を可視化
- 各層に応じたシナリオを設計し、自動かつ柔軟にコミュニケーションが可能
2. 顧客体験の一貫性とCX向上
- メール、LINE、アプリなど複数チャネルを横断したメッセージ整合
- 「誰が見ても“らしい”と感じる体験」を統一設計できる
3. ファン化・再購入を仕組みで再現
- 感謝、驚き、納得——関係構築の起点を演出
- CRMは“エモさ”をスケールさせるための仕組みでもあります
04|実は多い?CRM導入でつまずく2つのパターン
1. 「やっているつもり」のCRM
配信ツールを入れた、キャンペーンを打った。
けれど**「誰の、どのフェーズに、何の目的で」なのか不明確なままでは、関係構築とは言えません。**
CRMは単なる施策の集合体ではなく、戦略から逆算された構造が必要です。
2. 運用が定着せず「使われないツール」に
ツールを導入したものの、実際の配信設計やデータ活用が現場に任され、放置されるケースも。仕組み化=誰がやっても回る設計が必要です。
05|CRMツールはどう選ぶ?EC事業者が見るべき4つの視点
- セグメントの自由度:購買履歴・頻度・流入経路など、柔軟に切れるか
- チャネル統合性:LINE、メール、アプリなどが1つの軸で管理できるか
- 指標設計との親和性:LTV・定着率・離脱率のモニタリングがしやすいか
- 支援体制・UI:運用現場に負荷がかからないか
→ ツール選定の詳細は、CRMツールの選び方をご覧ください。
06|CRMは仕組み。だから“連携設計”が肝になる
カートシステムとCRMの間で「データが繋がっていない」ことで、セグメント配信や再購入促進が機能しないケースも少なくありません。
ID連携や購買履歴データの活用など、CRMを設計の中枢に置いたシステム連携設計が必要です。
07|売上を伸ばすCRM活用の実践例
● 初回定着率を改善:7日以内のLINE施策
購入後7日以内にパーソナライズされたLINE配信を行うことで、リピート率が平均より25%向上。
● 休眠掘り起こし:セグメント分け+限定訴求
過去半年で購買のない顧客に対して、行動履歴に応じたキャンペーンを展開し、再購入率が20%改善。
より詳しい事例は、こちらの事例記事もご覧ください。
08|まとめ:CRMとは“顧客との関係”をECに設計として持ち込むこと
- CRMは「配信」ではなく「設計」
- 顧客とどう付き合いたいか?という問いに、仕組みで応える
- だからこそ、戦略・体制・ツール・チャネルすべてを横断する発想が重要
まずは、自社にとっての「良い顧客関係とは何か?」を一言で定義するところから始めてみてください。
「自社のCRMは仕組み化できているか?」を定量×定性で診断し、改善アクションをご提案します。